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東京地方裁判所 昭和48年(ヨ)2378号 決定

申請人

ノースウェスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

日本における代表者

レジナルド・C・ジェンキンズ

右訴訟代理人

福井富男外一名

被申請人

ノースウェスト航空日本支社労働組合

右代表者

浜島斌

右訴訟代理人弁護士

小池通雄外七名

主文

一  本件申請を却下する。

二  訴訟費用は申請人の負担とする。

理由の要旨

一申請人と被申請人との間に昭和四八年七月三一日締結された、有効期間を昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までとする労働協約第三六条には、この有効期間中においては、この労働協約に定めるすべての労働条件および労働協約改訂に関しては、労使双方とも一切の争議行為を行なわないものとする旨の定めがある。

これによれば、申請人および被申請人は、右労働協約締結当時に予測されなかつたような特段の事態の発生のない限り有効期間中には、労働協約に定められた事項に関しては一切の争議行為を行なうことができない。

二1 前記労働協約には、申請人が被申請人所属の組合員たる従業員に対し支給する基本賃金および各種諸手当についての定めがあり、これは支給する賃金等を限定して列挙したものと解される。そうすると、被申請人は、前述のような予測外の特段の事態の発生のない限り、名目の如何を問わず手当等の支給を求めて争議行為等に出ることは許されない。

2 ところで、昭和四八年一〇月ころ以降物価が大幅に急上昇してきていることは、公知の事実であり、このような事態の発生は、前記労働協約締結当時においては当事者双方において到底予測することは困難であったものと認められる。そうだとすれば、右事態の発生を理由としてインフレ手当を要求して行なう争議行為をもつて直ちに、前記労働協約第三六条に違反するとはいえない。

三組合員に対する期末手当減額等に関する問題、業務の一部の下請化、設備の充実、増員等要求項目の中には、前記労働協約の所定外の事項であり、前記労働協約第二六条の苦情処理手続によつて解決しなければならない事項にもあたらないようなものも含まれている。のみならず、同条が争議行為の禁止を定めているといえるかどうかも疑問である。したがつて、これらの問題解決のために行なう争議行為も、同条ならびに前記労働協約第三六条に牴触しない。

四以上のとおり、被申請人が昭和四八年一二月一七日に労働大臣および中央労働委員会に対してした、労働関係調整法第三七条による予告通知に基づく争議行為は、前記労働協約第二六条、第三六条に違反するものではないから、右違反を前提とする本件申請は被保全権利の疎明に欠けることになり、保証をもつてこれに代えることも相当ではないので、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

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